医薬品メーカーとして70年以上の歴史をもつ富士化学工業。「創造と奉仕」を社是とする同社は、世界の人々の健康に貢献する製品を世の中に届けるという想いを実現するため、治療から、さらに未病に着目し、まだ機能性表示食品が存在しない30年前に純粋な医薬品メーカーが健康食品事業への挑戦を決めた。
美しい赤色を呈するアスタキサンチン。日本におけるこのアスタキサンチン製造のパイオニアである同社において、30年前の健康食品原料事業の立ち上げ時から携わっている執行役員 ライフサイエンス開発本部長 北村さん、機能性研究の専門家として基礎研究から臨床研究までアスタキサンチンの機能性研究において国内では右に出るものがいない西田さん、世界中の人々に届けるべく奔走している営業の平井さんの3名にお話しを伺った。
エントランスにて 左から西田さん、北村さん、平井さん
未知の藻類バイオ技術に挑んだ研究者たちの30年
「当時、社内には化学系・工学系・薬剤師ばかりで、バイオ系のバックグラウンドをもった人員がほぼいないという状況のなか、取り組みがスタートしました」
—北村さん
アスタキサンチンはヘマトコッカスという淡水性の藻が生産する天然のカロテノイドの一種である。アスタキサンチンの生産にはまず、生物である藻を培養することから始まる。ここがうまくいかなければ、話は先には進まない。しかし藻の培養は簡単なことではなく、他の微生物などの混入がなく、効率的に藻を増殖させるための条件を確立するには、多くの専門知識とノウハウを必要とする。
奇しくも、われわれ三生医薬 本社がある富士市の隣町 沼津市のスタートアップ企業とのつながりがヘマトコッカスの培養という壁に対するブレークスルーとなった。微細藻類の培養を専門とするスタートアップ企業との提携の話がトントン拍子に進み、翌年にはハワイ・マウイ島に1000個のドーム型の培養槽を建設し本格的なアスタキサンチン生産のためのヘマトコッカスの培養がスタートしたが、その道のりは決して平たんなものではなかった。
「来る日も来る日も顕微鏡をのぞいていました」
―西田さん
当時、新入社員として入社をして間もなくハワイ行きを命じられた若き日の研究者の西田さんは、屋外に設置された培養槽にヘマトコッカス以外の微生物が混入していないかを、毎日それぞれの培養槽からサンプリングして確認していた。ひとつひとつ慎重に確認していると、朝から晩まで顕微鏡をのぞいていることになっていたという。それほどまでに徹底した管理をおこなっていた。
「私たちは医薬品の会社なので、品質管理が非常に重要であると認識しています。当時から、GMPに準拠して生産をしていました。」
―北村さん
今となってはサプリメント自体を製造する工場ではGMPへの準拠は当たり前品質となっている。だが、原料を製造する工場では今なおGMPに準拠して製造しているところは多くない。30年も前から原料品質に対し強いこだわりを持ち、安心・安全な製品を届けようとしているのは、さすが医薬品メーカーというところだろう。
なぜ、雪深い立山連峰を望む富山県新川郡に本社を置く富士化学工業が、ハワイに生産拠点を構えたのだろうか?理由は、日光である。藻類の培養に光は欠かせない。年間の300日以上が快晴のハワイ・マウイ島のキヘイはアスタキサンチンの生産拠点としてはうってつけの場所だった。しかし実際には、屋外の天候によって藻類の生育は大きく左右されるため、生産の管理は決して容易ではなかった。もともと、ヘマトコッカスは冷涼で薄明るい環境を好む。一方でアスタキサンチンを生産させるには直射日光のような強光が必要であるため、まったく条件の異なる2段階培養でアスタキサンチンは生産される。ハワイの日差しはアスタキサンチンの生産に欠かせない重要な要素だが、ヘマトコッカスの増殖には決して適していなかった。また、少しでもくもりや雨が続くとアスタキサンチンの蓄積は後退してしまう。ハワイでの生産の確立に試行錯誤する中、遠く離れたスウェーデンの地では静かに別のプロジェクトが動き出そうとしていた。
「技術革命が起きた!と思いました」
―西田さん
植物学の研究で有名なスウェーデンのウプサラ大学発の企業が、ヘマトコッカスの屋内培養技術を開発していた。その会社を買収して、屋外培養から屋内培養技術を導入していった。温度や照度といった培養に重要なパラメーターが精密にコントロールできるため生産性が格段に高まった。加えて、衛生管理された屋内での密閉型リアクターでの培養は、雑菌などの異種生物の混入のリスクという点では比べものにならないくらい管理も容易で、さらに品質も安定していることが分かっていった。日光が必須であるため屋外でおこなうことが常識だった藻類の培養を、冬場の日照時間が極端に短いスウェーデンという国でおこなうことを思考し続けた結果、生み出された技術だろう。富士化学工業は自社の医薬品製造に準じた管理と、外部の協力者の技術をうまく融合させながら、高品質で安定的なアスタキサンチンの供給体制を確立していった。
ハワイの工場は2010年に閉鎖し、現在はスウェーデンの工場に加え、2014年にアメリカモーゼスレイクに建設したアメリカ工場の2拠点で屋内培養をおこなっている。
異国の地で重ねた試行錯誤の日々を、今も鮮やかに思い出す北村さんと西田さん
膨大なエビデンスに裏付けされる確かな機能
今では、多くのサプリメントや化粧品などに採用され、広くその成分名が認知されているアスタキサンチン。機能性表示食品のヘルスクレームとしては、アイケア、スキンケア(うるおい・弾力・紫外線からの保護)、抗疲労・抗ストレスと多岐にわたる。バックグラウンドが医薬品メーカーである富士化学工業はエビデンスにもこだわる。同社が健康食品事業に乗り出した1990年代は、国内では食品の機能性について複数の臨床試験をおこなっている原料は多くなかった。ただ同社としては、サイエンスとしてしっかりとした商品を世の中にお届けするという強い使命を抱き、数多くの臨床試験をおこなうことで、アスタキサンチンの機能を解明していった。2025年時点において医学文献データベースPubMedで「アスタキサンチン」をキーワードとして検索をすると、4000を超える学術論文がヒットする。そのうち、170の臨床研究があるが、同社のアスタキサンチンが使用されているものは半数をゆうに超える。
「学会で発表すると、抗酸化物質に否定的な医師の先生からご意見をいただきましたが、実際に利用してもらうとポジティブな結果がでて、結果として幅広い先生方に信頼されて研究の幅が広がっていったということもありました。」
―西田さん
確かなエビデンスが、他の研究者の興味を掻き立て、自社での研究だけではなく、試験サンプルとして利用されることで、多くの研究結果が生み出されたのだろう。利益相反がない第三者による研究でも多くのポジティブな結果があるということは、それだけ信頼が高いということにもなる。
機能性表示食品制度が始まる前年の2014年に消費者庁から公益財団法人日本健康・栄養食品協会が受託し、様々な食品成分の機能性について有識者による評価がおこなわれた。アスタキサンチンはその中でも数少ない最高評価を受けた成分であり、アイケア分野における機能性について明確で十分な根拠があると評価された。
多くのしっかりとしたエビデンスがあるので、アスタキサンチンは複数のヘルスクレームが表示できる。特に、スキンケアと、抗疲労に関するヘルスクレームでは、「抗酸化」という広告表現上においても一般消費者に広く認知されている魅力的なキーワードが使える点が大きな強みとなっている。高い抗酸化活性に着目して、地道な研究を続けてきて、その結果として魅力的なヘルスクレームを表示できるようにしたということは、先見の明があったということだろう。もともと、アスタキサンチンの国内で採用実績が多いのはアイケア訴求の商品だったということだが、最近ではスキンケア、抗疲労訴求の商品への採用も増えている。
「創造と奉仕」の社是のもと人々の健康に寄与したい
冒頭でもお伝えしたが、富士化学工業には「創造と奉仕」という社是がある。今回お話いただいたお三方からもこの社是に対する熱い想いが語られた。そこに込められた“世界中の人々を健康にしたい”という想いを実現するため、治療だけではなく未病という観点から加速していく少子高齢化という社会課題を解決すべく、将来の研究開発にも取り組んでいる。その一例として、認知機能を訴求するためのPRISMA2020に対応したSRを作成し、昨年には届出の実績もできた。
30年の歩みとともにアスタキサンチンへの情熱を語る北村さん
最後に未来のビジョンについて伺った。
「人生100年時代を迎える今、単に寿命が延びるだけでなく、いかに健康でいられる期間を延ばすか。アスタキサンチンにはそれに寄与できるポテンシャルがあり、アスタキサンチンを扱う富士化学工業のミッションの1つです。」
と北村さん、西田さん、平井さんのお三方から力強い決意めいたコメントがあった。
健康寿命の延伸に向けた富士化学工業の挑戦は続く。
雪化粧が美しい立山連峰を背景に未来を見据える富士化学工業
■富士化学工業株式会社(https://www.fujichemical.co.jp/)
医薬品とライフサイエンスの両輪で、人々の健康と未来を支える製品・技術の創出に挑み続ける富士化学工業。アスタキサンチンのパイオニアとして製造・販売にとどまらず、機能性研究にも力を注ぎ未知なる可能性を引き出し続けている。
創業 :昭和21年10月
所在地 :富山県中新川郡上市町(本社)
代表取締役社長:西田 洋
従業員数 :511名(2025年3月31日現在)
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