コロナ禍を経て、「なんとなく眠れない」「気分が晴れない」といった心の不調は、特別なものではなくなりました。
ストレス、プレッシャー、睡眠不足。目に見えない疲れが蓄積するいま、求められているのは日常のゆらぎにやさしく寄り添い、安心して続けられる植物由来の成分です。
そのなかで、20年以上にわたって心に働きかける植物素材に着目し、研究開発を地道に重ねてきた企業が常磐植物化学研究所です。
創業から一貫して、植物化学の専門企業として歩んできた同社は、中国で古くから親しまれてきた伝統植物ラフマの研究と製品化に挑みました。心を穏やかにし、眠りの質を高めるという特性を持つこの植物に、心のビタミンとしての可能性を見出し、ベネトロンの開発に乗り出しました。
当初はほとんど知られていなかったこの素材も、月経前の不調・睡眠訴求での機能性表示食品としての届出受理、アメリカでの臨床試験など、多角的な評価を得ています。
本記事では、代表取締役の立﨑社長、R&BD本部の楊専務、営業部の須田さんにお話を伺い、信頼される原料となった理由と、植物への敬意を持ち続けてきた開発者たちの情熱に迫ります。
営業担当の須田さん(左)、マーケティング担当の染野さん(右)
戦後復興から始まった「植物の力で人を救う」という使命
常磐植物化学研究所の創業は1949年。背景には、戦後の混乱と原爆による深刻な健康被害がありました。創業者である松尾仁博士(元・国立衛生試験所所長)と立﨑浩氏は、「原爆症に苦しむ人々を少しでも救いたい」という想いから、ソバなどに含まれるルチンに着目し、抽出・精製技術を確立。植物化学の専門企業としての道を歩み始めました。
その後は甘草由来のグリチルリチンの研究や、日本初のブルーベリーエキス製造への取り組みなど、常に時代を先駆ける素材開発に挑戦してきました。
創業当初からの姿勢は、世界の先進素材を、いち早く日本に届けること。
ヨーロッパやアメリカで医薬品として使われている素材を見据える視点と行動力が、現在に至るまで同社のDNAとして受け継がれています。
ラフマとの出会いと20年にわたる挑戦
健康産業においても米国市場が常に先行しているという事実があります。2000年代初頭、すでにアメリカでは心の病が社会問題化しており、代表的なハーブとしてセント・ジョーンズワートがありました。
このハーブは、心の病や精神的なストレスによる過食など、さまざまな用途に使われていました。
「セント・ジョーンズワートのような働きを持ちながら、副作用のない素材をずっと探していたんです。そのときに出会ったのがラフマでした。」
―立﨑社長
開発当時を振り返る立﨑社長(左)と開発担当の楊専務(右)
ラフマとの出会いのきっかけは、北海道医療大学薬学部教授(現名誉教授)・西部三省先生が行っていた研究でした。
ラフマに、セント・ジョーンズワートと同じ活性成分が含まれていることを西部先生が明らかにし、同様の薬理効果が期待できると考えて研究を進めたところ、実際に高い有用性が確認されました。
中国の薬典には、ラフマが神経の興奮を抑え、心を落ち着ける植物として紹介されており、心の不調に寄り添う素材としての可能性が見えてきました。
セント・ジョーンズワートや抗うつ剤、抗不安薬と比較する動物試験を日本やドイツの研究者と共に行った結果、セント・ジョーンズワートを凌ぐ生理活性を持つエキスの開発に成功したのです。
しかも、わずかな量で効果を発揮し、懸念される副作用や薬物代謝への影響も、現時点では報告されていません。この成果は、構想通りの開発が現実となった数少ない事例として、社内でも大きな手応えを得た瞬間でした。
信じ続けた20年──転機となったのは機能性表示食品制度
ラフマという植物素材には明確な手応えがありましたが、それでも長い間、売れない時期が続きました。
開発が始まった2000年代前半は、今でこそ一般的になった自分のメンタルに向き合うという意識がまだ浸透しておらず、うつや気分の落ち込みといったテーマは社会的にも語りにくい空気に包まれていました。
そうした中でも、同社は粘り強く開発を続けてきました。臨床試験やクリニックでの使用協力、睡眠や更年期といった複数の切り口からのアプローチ。科学的な裏付けは少しずつ蓄積されていったものの、市場では「ラフマって何?」「ベネトロンって?」という反応が多く、製品の価値がなかなか伝わらなかったと言います。
そんな苦しい時代においても、研究チームは心のビタミンとしての可能性を信じ、臨床試験を地道に重ね続けました。そして2015年、転機となったのが機能性表示食品制度のスタートです。
これまでセンシティブだったうつというテーマを、睡眠の質の改善という形でエビデンスを届けられるようになり、商品としての伝え方に大きな変化が生まれました。消費者庁とのやり取りに約1年を要しながらも、2017年には睡眠領域で届出・受理を実現。ラフマが初めて市場に歓迎される存在として脚光を浴びた瞬間でした。
「私たちは開発者であるからこそ、よいデータは必ず評価されるという信念を持ち、植物に向き合い続けてきました。植物には、人類の何千倍もの歴史があり、その価値を活かすのは、私たち人間の知恵と努力にかかっています。」
―楊専務
科学的信頼性と体感を両立するベネトロンの力
機能性表示食品としての受理を皮切りに、ベネトロンは多くの企業から注目を集める存在へと成長していきました。特に2023年には月経前の不調改善訴求での届出・受理も実現し、メンタルヘルスケアの選択肢として存在感を増しています。
注目すべきは、昨年アメリカで370名を対象にした大規模な消費者直結型臨床試験を実施。プラセボと比較しながら、睡眠とストレス改善への有効性を検証した結果、明確な効果が確認されました。この結果はネットニュースで取り上げられ、国内学会でも高く評価されています。こうしたデータは体感の高さに明確な科学的根拠があることを物語っています。

さらに、同社はコロナ禍以降、ベネトロンを健康経営サプリメントとして社員や関係者に配布。これまでに1,000件を超えるアンケートが集まり、「朝の目覚めがすっきりした」「ぐっすり眠れた」などの実感を伴う声が多数寄せられています。
こうした体感アンケートの蓄積は、開発のきっかけや採用判断にも影響を与えており、大きな資産となっています。
「これまで扱ってきた素材の中でも、これほどまでに体感の声が返ってくる素材は珍しいんです。」
―須田さん
営業現場においても、体感のある素材として高く評価されており、社内外にファンが広がっています。これは、長年にわたる開発努力と実感に裏打ちされた信頼の証といえるでしょう。
その実績は、国内外の受賞歴にも表れています。2021年に「ウェルネスフードアワード食品素材部門 銅賞」を受賞し、米国でも「Natural Choice Awards Ingredient Edition Women's Health Ingredient部門 準優勝」を獲得しました。こうした外部からの評価は、ベネトロン®の信頼性をさらに確かなものにしています。
安全性についても、薬物代謝への影響や副作用の懸念は、これまでの試験では確認されていません。安心して継続摂取できる植物素材として、企業にも生活者にも選ばれ続けています。
心のビタミンが広げる未来
ベネトロンのこれからは、国内市場だけでなく、より多様な人々の心の健康を支える存在へと進化しています。
世界へ――ハラール対応グミをはじめとした海外展開
ベネトロンは現在、グローバル市場への展開も加速しています。特に注目されているのが、ハラール対応グミの開発。ゼラチンの代わりにペクチンを使用することで、イスラム圏を含む多様な文化圏でも受け入れられる製品として、東南アジア市場を中心に高い評価を得ています。
新たなる訴求への広がり――睡眠からフェムケアへ
国内市場においては、ベネトロンは睡眠領域を超え、月経ケアといった新たな訴求分野への展開が始まっています。
20〜40代女性を中心に、月経関連の悩みに対する製品開発が進むと共に、今後さらにデータの蓄積が予定されています。
プラスワンサポートとしての配合――多様な剤形と用途展開
ベネトロンのもうひとつの魅力は、様々な製品形態に配合できるという汎用性の高さです。錠剤やカプセルはもちろんのこと、顆粒・グミ・ドリンク・チョコレート・ラムネ・ゼリーといった、日常に取り入れやすい形態での製品化が進んでいます。
味に関しても、ラフマ由来の渋みはあるものの1日あたりの摂取量が非常に少ないため、味の調整やマスキングが容易で、開発現場から味で断念しなくてよい原料として高い評価を得ています。
こうした特性から、ベネトロンは主成分としての使用だけでなく、副素材として処方にプラスワンすることで、商品のセールスポイントを増やすことが可能です。
たとえば、肌の調子を整える商品にラフマを加えることで、肌ケア+睡眠+フェムケアといった複合的な価値訴求が可能になり、製品の訴求力や差別化につながります。
地域とともに、植物とともに歩む

佐倉ハーブ園で定期的に開催されているマルシェ(左)と佐倉市立根郷小学校の校外学習(右)
千葉県佐倉市に広がる約5万2千平方メートルの佐倉工場は、時間をかけて少しずつ地域と信頼関係を築きながら成長してきた拠点です。排水・臭気・騒音などの課題に誠実に向き合い、地域とともに歩んできた歴史が、今の姿を形づくっています。
この共に育む姿勢は、同社の環境への向き合い方にも表れています。植物から成分を抽出するというプロセスは、大量の水を必要とし、副産物として抽出かすも発生するため、製造における環境負荷は決して小さくありません。
しかしこの課題に正面から向き合い、エネルギー使用量の削減や廃棄物の最小化、資源リサイクルの徹底など、環境負荷を低減するさまざまな取り組みを15年以上にわたって継続してきました。
現在では、自社で再生可能エネルギーを生産・活用する体制も整備され、全体で99%のカーボンニュートラルを実現。残る1%についても、2030年までに達成する目標を掲げています。
さらに健康食品業界では数少ない再エネ100宣言RE Action(企業、自治体等が使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する意思と行動を示すことで政策を動かし、社会全体の再エネ利用100%を促進する仕組み)へ参加し、同分野における環境先進企業としての地位を確立。
これらの取り組みが評価され、2023年度にはエコアクション21 オブザイヤー2023のソーシャル部門で環境大臣賞を受賞しました。
こうした継続的な努力の根底にあるのは、経営理念に掲げられた植物に感謝し、生かされる会社になるという強い想いです。設立趣意書にも、植物化学の発展を通じて公衆の福祉に貢献すると掲げられており、創業から現在に至るまで一貫して植物との共生を重視してきました。
その精神は企業文化にも根づいています。同社には、植物が好きな社員が自然と集まり、植物に対する関心やリスペクトを持つ人財が活躍しています。経営理念への共感だけでなく、植物の持つ力を信じ、それを社会に届けたいという強い情熱が、日々の研究や製造の現場に宿っています。
植物は人類よりもはるか昔からこの地球に存在し、人の健康を支え続けてきた存在です。同社は、その恩恵を享受する立場として、植物に対する敬意を忘れずに、地域・自然環境との調和を大切にしながら、これからも持続可能な原料開発と製造を続けていきます。

千葉県佐倉市にある本社(左)と本社に併設された約10,000㎡の佐倉ハーブ園(右)
■常磐植物化学研究所(https://www.tokiwaph.co.jp/)
常磐植物化学研究所は、1949年創業の植物化学専門企業です。医薬品由来成分の研究を起点に、現在は健康食品・化粧品分野へ展開。ベネトロンなど、科学的根拠に基づく植物素材の開発で注目されています。
創業 :昭和24年10月
所在地 :千葉県佐倉市木野子158番地(本社)
代表取締役:立﨑 仁
従業員数 :150名
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