健康寿命の延伸が注目される今、高齢者のフレイル予防として骨や関節、筋肉の維持に役立つ素材の存在価値はますます高まっています。そんな中、「骨の健康を支える」新たなカロテノイド素材として登場したのが、理研ビタミン株式会社の「パプリカロテン」です。
理化学研究所 ビタミン研究室をルーツとし、ビタミンAからはじまった同社が、なぜ「パプリカロテン」の開発に着手したのか?
数あるカロテノイドの中から「パプリカ色素」に着目した理由とは?
本稿では、パプリカロテンの開発を担当した海貝さんへのインタビューをもとに、その誕生から市場展開、そして未来への展望に迫ります。

エントランスにて左から村上さん、秋元さん、似内さん、海貝さん
「第二の柱」を探して。少数精鋭で挑んだ新たな色の可能性
2004年に理研ビタミンへ入社して以来、ずっとヘルスケア事業に従事してきた海貝さん。
そんな海貝さんが最初に手掛けたのが、クチナシ色素の機能性食品原料「クロビット」でした。2007年頃、クロビットの開発が一段落すると、次の素材を探そうという動きになりました。その時に候補として浮上したのが、すでに色素原料として実績のあった「パプリカ色素」です。
「少数精鋭と言えば聞こえはいいですが、当時、機能性食品素材の担当は非常に少なく、手探りで進めていました。実質2名でパプリカロテンの開発を企画し、工場スタッフと連携してなんとか製品化を進めていきました。」
ー海貝さん
“赤い成分”の苦悩とブレイクスルー
最初はパプリカの赤色色素成分「カプサンチン」の高濃度化を目指していましたが、想定外の課題が続きます。特に製造面での濃縮技術の確立が難航、「知名度のない素材をつくって売れるのか?」という社内の懐疑的な声もあり、開発は1年以上停滞してしまったのでした。
それでも諦めず文献調査を続ける日々。転機は急に訪れました。
外部の情報提供から「クリプトキサンチン」が唐辛子やパプリカに多く含まれていることが判明したのです。実際にHPLC分析をしたところ、同社のパプリカエキスにも豊富なクリプトキサンチンが含まれることが確認でき、開発方針を大きく転換。製法をカプサンチン濃縮からクリプトキサンチン濃縮に切り替えたことで開発は大きく前進しました。
「HPLCでクリプトキサンチンのピークを見た瞬間、『これだ!』と確信しました。クリプトキサンチンなら日本人に馴染みがあり既存の研究データもある。まさにあれがブレイクスルーでしたね」と語る海貝さん。
この気づきにより、色素素材から機能性素材としての可能性が一気に開花しました。

「パプリカロテン」の原料に用いられる果実
発売早々に立ちはだかった“機能性表示食品制度”という壁
2014年、パプリカロテンはオイル状の機能性食品素材として発売されました。しかし、その直後に始まった機能性表示食品制度にどう対応するかで社内は大きく揺れました。
当初はクリプトキサンチン単独での届出を模索していましたが、消費者庁から「他の関与成分も明示すべき」との指摘を受け、結果として「パプリカ由来カロテノイド」として複数成分を含む形で届け出ることになったのです。
この制度初期の混乱への対応が、商機を逃す原因にもなってしまいました。
「タイミングと制度に翻弄された素材でしたね。採用目前だった企業に納品が間に合わず、他社素材に切り替えられてしまったこともありました」と海貝さんは当時を振り返り、苦笑いしていました。
「骨」へのフォーカスと研究体制の強化。さらなる展開を見据えて
現在、パプリカロテンは「骨の健康」を主軸に展開されています。なかでも特に注目されているのが、骨吸収マーカー「TRACP-5b」の上昇を抑制するエビデンスです。
「これは、数ある機能性データの中で最も自信を持って出せるものです。体感が難しい“骨”というテーマにおいて、数値で明確な変化を示せることは大きな武器になります」
ー海貝さん
現在では開発チームも4名体制に拡充され、これまで手探りだった開発方針も、よりマーケット志向へと舵を切りつつあります。」
売り方の一つの方向性として、クロビットの「疲労回復から睡眠へ」という自然なストーリー展開に倣い、パプリカロテンも「骨」を中心にその周辺領域への展開が考えられています。
パプリカロテンを継続摂取すると、クリプトキサンチンの血中濃度が安定して上昇することはわかっているので、クリプトキサンチンの疫学調査等で示されている様々な機能性をパプリカロテンも持つはずです。
自社で確固たるエビデンスを取得することができれば、より多くの人に魅力を伝えることができると海貝さんは考えています。
競争の中で光る独自性と理研のプライド
競合の多いカロテノイド市場ですが、パプリカロテンは「パプリカ由来」という点で差別化されています。現在、同原料を扱うメーカーは理研ビタミンともう1社のみ。マルチカロテノイドであるため、多機能でありながら少量でも効果が期待できる点も強みとなっています。
また、理研ビタミンには色素についての知見が豊富なスタッフが多く、安定した品質とエビデンスの確かさにも定評があります。科学的な裏付けを重視する社風のもと、開発に妥協しない姿勢が信頼につながっています。
「理研の原料なら安心できるよね──その信頼を裏切らないよう、科学に正直であることを貫いています」
ー海貝さん

科学者としての信念を熱く語る海貝さん
今後の市場ニーズに応える「なじみのある素材」×「新しい機能性」
パプリカロテンの最大の武器は、食経験があるパプリカ由来の“なじみのある素材”であることです。この“なじみのある素材”という強みを活かしながら、そこに新たな気づきを与えられるかどうかがポイントであると、海貝さんは話してくれました。
「“骨粗しょう症予防”だけでなく、“骨の健康がほかの機能にも波及する”というメッセージを伝えたい。それが『自分ごと化』につながるはずです」
ー海貝さん
また、多様な機能性が期待されるパプリカロテンは「ベースサプリメント」としての側面も持ち、短期的な効果ではなく、長期的に日々の健康の土台を支える素材として定着させることを目指しています。
パプリカロテンが描く未来のビジョン
パプリカロテンをより広く使ってもらうために、今後はサプリメント用途にとどまらず、加工食品などへの応用も視野に入れているといいます。また、機能面では美容系市場への参入も検討されており、「骨×美容」といった新しいカテゴリ提案もあり得るかもしれません。
しかし、「科学的裏付けを最優先する」という開発方針は曲げません。
「自分たちが自信を持てないエビデンスを無理して出しても意味がありません。たとえ開発費をかけていても、安定性や信頼性が不十分であれば製品化は中止する。そんな“開発の良心”を大事にしています」
ー海貝さん
理研ビタミンのブランドは「科学への誠実さ」そのもの。パプリカロテンもその姿勢の中で、着実に育てられてきた素材であると、取材を通して強く感じました。
結びに──「小さな成功」が生む市場の連鎖
海貝さんが語ってくれたパプリカロテンの未来像は、華々しさよりも、堅実さに満ちていました。
「クロビットが市場に広がったのは、“最初の1社”に採用してもらえたから。パプリカロテンも同じように一つずつ成功を重ねていくことが大切です」
ー海貝さん
“赤い色素”から始まったパプリカロテンの開発は、いまや「骨を支える力」となり、そして今後はただの色素を超えて、開発者たちの想いと科学への誠実さが詰まった“人々の健康の礎”になろうとしています。まるでビタミンのように。
■理研ビタミン株式会社(https://www.rikenvitamin.jp/corporate/)
家庭用食品、業務用食品、加工食品用原料、食品用改良剤、化成品用改良剤、ビタミン類などの製造・販売を行う企業。
“自然の力で暮らしを豊かに”をモットーに、ビタミンA事業で培った「抽出・精製・濃縮技術」をもとに幅広い事業を展開している天然素材のパイオニア。
設立 :1949年(昭和24年)8月
所在地 :東京都新宿区(本社)
代表取締役社長 :望月 敦
従業員数 :997名(2025年3月31日現在)
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